貧血の牛ってどんな感じ?

獣医師の渡邉佳和子です。

今回の記事では、最近実際に診させていただいた牛の検査結果を通して、牛の重度貧血例についてご紹介してみたいと思います。

今回ご紹介するのは、「急に採食量と乳量が落ちた」と稟告を受けた牛です。

重度の貧血状態について

初診日の3日前と50日前にそれぞれ3Lずつの献血履歴がある妊娠80日台の牛で、初診日の1ヶ月前には、左大腿部内側に自壊部のある皮下織炎により左大腿部全体が大きく腫れ上がったという病歴もあります(原因は不明)。

膣粘膜は明らかに白っぽくなっており、貧血が重度であることを示しています(左が患畜)。

遠心分離後の血液(ヘパリン加)を比べてみます。

一番左が今回の患畜のもので、明らかに赤血球割合が少ないこと、血漿の色から溶血はしていなさそうなことが肉眼的にわかります。

動画1

動画2

血液(NaF加)を振ってみると、動画1(患畜)のほうが明らかに水っぽく薄いことがわかります。

血液検査の結果を分析

ここからは、初診日以降に行なった検査結果と、そこから読み取れる情報を整理していきます。

以下に示すのは初診日の1ヶ月前・初診日から4日間・初診日10日後(計6回)の全自動血球計算機による検査結果です。

初診日の生化学検査項目の測定値は以下のとおりです。

上の結果を見ると、

①初診日以降、RBC(赤血球)・HGB(ヘモグロビン)・Ht(ヘマトクリット)がいずれもひどく低い値となっている
→重度の貧血を起こしている

②MCV(平均赤血球容積)は若干の増加傾向、MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)は若干の減少傾向がみられる
→正球性(~大球性)正色素性(~低色素性)貧血に分類される

③白血球や血小板の減少は伴っていない→汎血球減少症ではない

④アルブミン・グロブリンのどちらも低値である→特に出血性貧血が疑われる

⑤BUNは増加していない→消化管出血の可能性は低い(便色、便質は正常)

⑥ビリルビンは増加していない→溶血は明らかでない(黄疸なしも確認。尿も透明)

このようなことがわかります。

血液塗沫標本を作製

さらに貧血の原因を探るため、血液塗沫標本(ライトギムザ染色)を作製しました。

以下に示すのは1000倍拡大像です。

⑦全体的に赤血球の大小不同が明らかに観察される→赤血球再生像

⑧赤矢印で示したのはハウエルジョリー小体(=赤芽球が脱核したあとの核の遺残物)、

青矢印で示したのは若干大型で青みがかって見えるため、多染性(/網状)赤血球(=RNAがまだ残っており、塩基性に染まる未熟な赤血球)ではないかと疑ったもの

→いずれも赤血球再生像。MCVが若干増加傾向にあることから、網状赤血球の出現があってもおかしくない

以上から、急な出血による血液の喪失→盛んな赤血球再生、という流れが浮かび上がってきます。

参考までに、貧血所見のない他の牛の血液塗沫も載せておきます。

以下に、診断の参考にさせていただいたヒト医療に関する資料も引用します。

日本内科学会雑誌第104巻第7号より引用

貧血の原因について

細かい項目の測定は難しいため診断できる範囲は限られますが、現時点では出血性貧血である可能性が最も高いと結論づけられました。

残念ながら出血源は特定できず、少しずつ採食量・乳量ともに回復傾向にあるとのことで、この牛は「できるだけ安静にしつつ様子見」ということになっています。

もちろん、短期間で2回供血牛として選抜し、合計6L血を抜かせてもらっていることの影響もゼロではないと考えています。

※ただし、動物やヒトの全血液量は体重の8%(650kgの牛なら52L)といわれており、このうち15%未満の喪失(650kgの牛なら7.8L)であれば血圧や脈は正常に保たれると言われています。1回目と2回目の供血の間に行なった血液検査でも貧血は確認されていません。

本日は蹄病治療でこの牛を拝見しましたが、膣粘膜は前よりも少し赤みが戻ってきたかな?という具合でした。

はっきりとした原因や病態を畜主さんにお伝えできないのが心苦しいところですが、今のところ牛が元気で過ごしていてくれることをありがたく思います。

これほど重症な貧血症例にはなかなか出会うことがないため、わからないことも多く残りましたが大変勉強になりました。

今回もお読みくださりありがとうございました!

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