獣医師の渡邉佳和子です。
今回はフリーストール牛舎で右眼瞼に深い切り傷を負っていた牛に関して、
外科的治療の様子とアセチルヒドロキシプロリン製剤(商品名:プロセーブ)を使用してみた結果をご紹介します。
傷の状態
「右目の上が切れているので診てほしい」とのことで、早速見に行ってみると

右目の上のあたりが試合後のボクサーのように丸く腫れ上がっていました。
この角度からだとよく見えませんが、

上から見ると傷口が見えます。

近くで見るとこんな感じです。皮下脂肪が切り傷からはみ出ており、乾燥して黄色くなっています。
これだけ見ると、切り傷自体は浅いような?腫れている部分は単なる打撲かな?と思いましたが…

なんと、ぺろっとめくれました。
皮下脂肪の下にある筋層までしっかり切れていて、かなり深い傷であることがわかります。

指を入れて中を探ってみると

図に示す指先に向かって傷は深い方向に切れ進んでおり、
指先では頭蓋骨に触れてしまいました。見た目以上に深い傷のようです。
この日は代表が休診の日だったため、とりあえず電話で報告・相談します。
渡邉「かくかくしかじか…こういう傷で…骨が触って….縫った方がいいですよね…」
代表(庭仕事中)「それは縫った方がいいですね!いつも通りお願いします」

なんと、1人でまともに外傷の縫合をしたことがない私に、いきなり実践のチャンスが回ってきました。いつもの第四胃変位手術と同じように外科的処置で大事なポイントを思い出し、代表ならどうやるかなあと想像を働かせながらやってみます。
外科的処置の様子
実際に行った外科的処置の手順
①局所麻酔を傷の周囲皮下~筋層に注射
②傷の外に出ている皮下脂肪や壊死組織などを取り除く
③傷の内面のゴミや汚れをガーゼで複数回拭き取り、消毒
④縫合する皮膚も消毒(本来は毛刈りもするべきですが、目の近くということもあり今回は割愛しました)
⑤筋層を吸収糸で垂直マットレス縫合×3
⑥皮膚を非吸収糸で単純結節縫合×4
⑦抗生剤を全身投与(その後7日間継続)
以上です。

筋層が縫えたところ(画像の彩度を下げています)。
下(腹側)に進むにつれて切れている筋層が薄く(傷が浅く)なっていくので、糸をかけると筋肉がちぎれてしまった部分もありました。
ちなみに、外側に離れてしまった部分(画像上で縫ったラインから右側にあたる部分)は痛覚がほとんどないようでした。

皮膚も縫えたところ。
なんだかあまり自信がありませんが、縫う前よりは綺麗な状態に整えることができました。
傷を開いたままにしておくよりは、病原体やゴミの侵入を防げているはずです。
完全な無菌操作とは決していえない工程だったので、傷口が化膿してしまわないか?うまくくっつくのか?不安が残ります。
処置後1週間で徐々に腫れは引いたものの、傷口から少量の排膿が見られたことから、
2週間経過したら一度抜糸して傷の中の状態を確認してみようということになりました。
2週間後の経過
2週間後の状態がこちら

皮膚はあまりくっついていそうな雰囲気がありませんが、全体的に腫れは引いており、目もしっかり開くようになりました。
皮膚を縫合していた糸を取ってみます。


意外にも、下の方の皮膚はきちんとくっついてくれています。
顔を近づけると若干の化膿臭がありましたが、生理食塩水で洗い流すとそれ以上の排膿はみられませんでした。
上~真ん中にかけても、皮膚こそくっついていないものの、完全に切り離されていた筋層はしっかりと閉じてくれており、指が入るような空間もありませんでした。
筋層を縫った吸収糸は肉眼で確認されず、うまく吸収されながら筋層をくっつけてくれたようです。
プロセーブを使ってみよう
そしてここで登場するのが、我々には使用実績のないこちら

「プロセーブ」という動物用の塗り薬です。
主成分はアセチルヒドロキシプロリンという物質で、皮膚のコラーゲンに存在するアミノ酸であるヒドロキシプロリンの誘導体のため、皮膚にできた傷の修復を促進する効果が期待されています。
牛や馬の外傷治療に用いられ、牛では特にDD(趾皮膚炎)の治療に対する効果が報告されています。
“生理食塩水などで洗浄し、壊死組織が取り除かれた、化膿していない傷”に塗布することが推奨されていることから、今回の傷こそ効果を試してみるのに最適なのでは?!ということで、数日おきに塗りながら傷の治癒過程を観察することにしました。
(塗布1日目)
まずは抜糸後、生理食塩水で表面を洗い流し、プロセーブを塗布しました。

幸いにも顔面なので、すぐに薬が落ちてしまうことはなさそうです。
(最初の塗布から2日後)

傷表面は乾燥しています。2日前と並べてみると


明らかに傷周囲の皮膚が内側に寄ってきています!
周囲の腫れもより引いてきている感じがします。出だし好調です。

2回目の塗布も完了です。
(最初の塗布から6日後)
前回から4日後、どんな感じか見にいくと

さらに皮膚が寄ってきました!

アルコール綿で表面の乾いた血の塊を拭き取りました。前回と並べてみると


少しずつですが確実に傷口は小さくなってきました。

3回目の塗布も完了です。
薬の塗布だけでなく、細かく様子を見ながら表面をきれいにしてあげることも治癒に役立っていることを信じつつ、間隔を空けてもう少し続けます。
(最初の塗布から16日後)
前回から少し日にちを空けて10日後、そろそろいい頃かとまた様子を見に行きました。

ぱっと見はこんな感じ
前回と比べると…


さらに皮膚が寄ってきて、毛も生え揃ってきました!

近くで見るとこんな感じです。
徐々にではありますが皮膚が再生されて傷口は段々と小さくなっており、
表面はかさぶた状になっています。
ここまできたら治療の必要はなさそうです。


ちょうど1ヶ月前の初診日と比べると、目の腫れはすっかりなくなりました。
おわりに
プロセーブの効果について、こればかりは使った場合と使わなかった場合を比較しようがないのではっきりしたことは述べられませんが、かさぶた状になる前のジュクジュクとした傷をそのまま放置するよりは順調で速やかな治癒経過だったのではないかと思いますし、治療者側の安心材料としても頼りになる存在でした。
特に大きな採食量や乳量の変動もなく、傷を治すことができてよかったです。
今後は趾皮膚炎の治療にも活用してみようと考えています。
今回の内容は以上となります。
お読みくださりありがとうございました!

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