こんにちは!獣医師の渡邉です。
今回は生後5日目メス子牛の臍帯炎(さいたいえん)を題材とした症例紹介記事となります。
日々お世話になっている酪農家さんは哺乳牛の管理が素晴らしく、子牛の診療は1ヶ月に1頭あるかどうか?というほど少ないので、今回は私にとって久しぶりの臍帯炎治療となりました。
経過が長めなので、複数回に渡り時系列に沿ってお届けします。
初診時



※子牛の写真は2診目のものです
初診時の状態は、
・臍帯は太さ5cm程度に腫脹硬結し、先端が湿っており化膿臭あり、疼痛なし
・ヘルニア輪なし ・臍静脈、臍動脈、尿膜管への波及触知されず
・平熱 ・肺炎症状なし ・腸炎症状なし ・尿検査異常なし
・起立動作鈍め ・結膜白っぽい ・膣粘膜は血色良好 ・四肢末端温感
でした。採血とマイシリンの筋肉注射を行い、しばらく抗生剤治療を続ける旨を畜主さんにお伝えしました。
初診時の血液検査結果はこちら↓

急性感染により好中球の割合が増加しているのは予想通りですが、貧血傾向と血小板の著増が気になります。ちなみに2診目の血液検査でも、ほぼ同様の血球計算結果となりました。調べたところ、臍帯炎の症状のひとつに貧血もあるようでした。
この貧血が、長引く治療の引き金となります…
他にはGGTが高値を示していることから、初乳はきちんと摂取できていたことがわかります。
さらに初診時には臍帯から綿棒で採取した膿汁を培養し、細菌培養検査(グラム染色)
+薬剤感受性試験を行ってみました。
その結果↓


翌日には大腸菌と少量の連鎖球菌が分離され、

2菌種混合で感受性試験にかけたところ、セフェム系の抗生剤にのみはっきりとした感受性を示しました。
残念ながらストレプトマイシンのディスクを所有していないため、マイシリンが効いていたかどうかは正確にはわかりませんでしたが、3診目からは抗生剤をセファゾリンに変更することにしました。
そしてセフェム系抗生剤を注射すること3日間…
5~7診目
臍は随分と退縮してきました。初期段階で抗生剤感受性を確認し、必要であれば変更することの大切さを改めて実感する経験となりました。抗生剤を正しく使用すれば、臍帯炎はこんなにぐんぐん治るものだったのだなあと感激&反省です…
しかしここで、原因がはっきりとしない水様下痢便をするようになってしまいました。

起立は可能ですがなんとなくしょんぼりしています。貧血の影響でしょうか?
この日は生菌剤を飲ませましたが、翌日も下痢は改善せず、さらに起立時のふらつきも見られるようになってしまいました。
診療期間を通して子牛はグッタリしているというほどではなく、臍も退縮しているけれど、なんとなく感じられる活力の弱さが気になるし、下痢もし始めてしまったし…
この気になる感じの原因はやはり貧血では?ということで、6-7診目の2日間で各500ml、親牛からの輸血を行いました。
輸血直前に採血した血液検査結果はこんな感じです。診療期間中に最も低いヘマトクリットが測定されたのもこの日でした。

こちらは輸血2日目の血液検査結果です。赤血球系の数値が全体的に回復しています。

ところがこの後、代表も遭遇したことのないという予期せぬ事態が発生します…
~中編に続く~
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