こんにちは!獣医師の渡邉佳和子です。
今回は
「乾乳牛が乳房を怪我しているのでみてほしい」
とのご依頼で診療した牛の治療風景をご紹介します。
傷の様子について

なんだか赤いものがはみ出しています。
このまま触ろうとすると位置的に蹴られてしまうので、ちょっと脚を引っ張ってもらいました。


嫌がって脚をブンブンと振った拍子にボロン!と大きな血餅が飛び出してきました。

血餅が出たあとの様子。外からはわかりませんが、手を入れてみるとA分房→B分房の方向に手のひら1個分より大きく広がる広く浅い空間がありました。
切り傷も大きいので縫合したいところですが、位置的に左後肢が邪魔をしてしまうので、枠場に入れていただきました。
明るいところで改めて傷を精査します。

中のイメージはこんな感じです。
深いので目視では確認できませんが、おそらく皮下組織~筋層の間、または筋層の中を切り裂く様に水平に広がった傷であることがわかりました。
洗浄方法について
温めた生食を注入して中を洗っていきます。(動画あり↓)
洗いながら、まだ少し残っている血餅も取り出します。
毛刈り、麻酔、消毒について



開腹手術ほど無菌操作は徹底しませんが、処置によって余計な感染や傷の悪化がないように、毛刈りと消毒を行います。
蹴られやすい位置なので、特にしっかりと局所麻酔をかけて牛と術者の安全を確保します。
トリミングについて
不規則に切れた皮膚は創面の一部が乾燥しており、このまま縫合しても傷口がうまくくっつく可能性が低いため、新鮮創を作る&ぴったりとつくようなラインに整えます。
縫合について
傷は筋層を頭側→尾側方向に斜めに切り進んでおり、左側の断面は筋層が厚く残っていますが、右側はほとんど皮膚だけだったので、皮膚・筋層ごと合わせて単純結節縫合で寄せていきました。
できれば死腔を残したくないので内面も縫い合わせたいところでしたが、
内腔が広く深いのに対して傷口は腕1本程度しか開いておらず、目も手も届かないため断念しました。

外から見えるのは筋組織のみ


縫えました。
表面は閉じたものの、中にはかなり大きな死腔ができているため、中で血液などの腐敗が過剰に進まないか心配が残ります。
ここから数日間、抗生剤の全身投与とともに様子を見ていきます。
まとめ
今回は傷が乳腺組織には達していなかった+傷ついた乳房は既に盲乳になっていたので、皮膚と筋層さえくっついてくれれば次の乳期も無事に泌乳できるのではないかと思います。
傷の中を多量の血餅が埋めてくれていたので、汚染や乾燥が最小限に留まってくれていたのも幸運でした。
このような外科処置が必要になるほどの大きな傷の場合は、今回のように乾燥や腐敗が進む前のできるだけ早い段階で処置できると治りも順調だと思います。
はっきりした原因は不明ですが、獣害のほかに、人間の目が届きにくい高さにある鋭利なもの(牛舎構造の一部など)に引っかかった可能性も十分に考えられます。
同じような怪我をする牛が続かないように、牛の生活環境内に危険なものがないかよく観察してみたいと思います。
最後までお読みくださりありがとうございました!

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