こんにちは!獣医師の渡邉佳和子です。
今回は白内障を疑う子牛の症例紹介と、その子牛に対しておこなった眼球エコー検査についてご紹介します。
なかなかインターネット上では該当する症例や検査事例に出会えなかったので、今回の記事がどなたかの参考になれば嬉しいです。
症例について
・生後1ヶ月例のホルスタイン♀子牛
・稟告「左眼が白いので見てほしい。白くなっているのは今まで気づかなかった。ミルクは飲むし元気もある」
・病歴なし
以上の連絡を受けた時点では、まず角結膜炎を疑うところですが…
初診時の状態がこちら

左眼の様子
あら?なんだか想像と違います。
我々が想定していた「角結膜炎で眼が白くなった状態」は

こんなのとか

こんな感じで
角膜中心~全体にかけて白濁し、結膜の充血や流涙・眼やに・羞明を伴うものですが、
今回の症例はどうやら様子が違うようです。

ちょっと角度を変えて見てみると、角膜は綺麗に透き通っていて、
その奥に白く濁ったもの(=おそらく水晶体)が見えます。
ということは、水晶体が白濁=白内障かも!と考えられました。
ご覧の通り、角結膜炎に伴うような症状は特に見られません。

右眼の様子
反対側の右眼には同様の症状はみられませんでした。
片側性白内障のようです。
白内障について
会社に戻って、改めて情報収集します。
①牛に白内障ってあるの?
調べたところ、頻発する疾患ではないものの、ホルスタインでも発症する例はあるようです。
特に海外の文献では、ホルスタイン種などの子牛の両側性先天性白内障に関するものが複数見つかりました。
以下参考画像です。

Congenital nuclear cataracts in a Holstein dairy herd (S.Osinchukら)より

A de novo variant in the bovine ADAMTSL4 gene in an Original Braunvieh calf with congenital cataract (Irene Monika Häfligerら)より

Bilateral cataract development in Holstein heifer calves( Samantha C Cliffordら)より

Study of congenital Morgagnian cataracts in Holstein calves (Marina Braunら)より
肉眼的な所見では、特に2枚目・4枚目の参考画像が今回の症例と近いように見えます。
よって、「今回の症例は白内障である」という前提のもと進めていくことにします。
②どうしてなったのか?
子牛に発症する白内障の原因は、先天性の他にも様々考えられます。
(1)先天性のもの
:子宮内での感染(特に妊娠初期~中期におけるBVDVの胎内感染は白内障を引き起こすという報告があります)、遺伝
(2)外傷性のもの
:娩出時に物理的な障害を受けた、生まれてから何らかの物理的な衝撃を眼球に受けるできごとがあった など
(3)基礎疾患があるもの
:牛では考えづらいですが、糖尿病や寄生虫感染、他の眼球疾患に伴うもの など
(4)その他
:中毒によるもの、薬物によるもの、栄養失調 など
今回は生後1ヶ月齢でようやく畜主さんが気づいたとのことなので、出生直後から水晶体が濁っていたかどうかははっきりせず、先天性のものも否定できません。
ただし、文献を探しても先天性白内障に関する報告は両側性の症例ばかりで、発症のメカニズムを考えても先天性かつ片側性というのは珍しいと考えられます。
このことから、外傷性の可能性が考えられる中では最も高いのではないかと結論づけられました。


母牛の眼にまったく異常はありません。
③治療はどうするの?
子牛自身は元気なので、特に治療は必要ないとされます。
仮に片眼の視力がなかったとしても、今後生きていくなかで乳牛にとって致命的に不利なことはほとんどないからです。
ただしヒト領域では、外科的治療のほかに、なんと牛の治療でも使用する「チオラ(チオプロニン製剤)」の錠剤が初期老人性皮質白内障の治療に適用されているとのことです。
添付文書情報には、
「水晶体混濁に対する作用:チオプロニンは、牛水晶体蛋白の凝集を抑制した。さらに、ナフタリン及びジニトロフェノールによる家兎の実験的白内障の発症を遅延させた」
との記載がありました。
なんと、牛が試験に使用されたのでしょうか?牛の白内障に対するチオラの使用症例はほとんど見つけられませんでしたが、使用してみる価値はあるかもしれません。
あくまで進行抑制目的であり、既に発症した部分に関しての解決策はなさそうですが…
④詳しい検査方法はないの?
眼球疾患の検査方法として、
小動物領域では
・角膜断層の異常を調べるスリットランプ検査
・角膜の傷の有無/深さを調べるフルオレセイン試験
・涙の量を調べるシルマーティアテスト
・眼圧測定
・眼底検査
・網膜~視神経の伝達を調べる網膜電位図検査
などさまざまな方法がありますが、いずれも専用の機械や薬品が必要となり、
大動物領域で使用することはほぼゼロといっても過言ではありません。
ただし、小動物領域で一般的に行われる検査の中で
我々にもチャレンジできそうなのが

超音波検査です!!
動物病院さんのホームページなどを参考にさせていただいたところ、
瞼の上からプローブを当てることで眼球の構造が描出でき、プローブはリニアでもセクタでもOKのようです。眼球検査専用のプローブというのも存在することを知りました。
ものは試し、見よう見まねでやってみましょう!
眼球エコー検査について
実際に行った検査の様子と撮影画像をご紹介します。
検査には、本多電子 HS-1600Vを使用しました。

検査の状況を上から見たイメージです。
図のように、瞼の上から地面と水平に直腸検査用のリニアプローブを当ててみます。
眼に入らないように気をつけながら、瞼をしっかり湿らせることとエコーゼリーも忘れずに。
じっくり観察させてもらうため、軽く鎮静をかけて寝てもらいました。

寝ている隙に肉眼でもじっくり観察させてもらいます

「水晶体の白濁」といっても蛋白の凝集具合には偏りがあるようで、模様のようなものが見えます。
では、いよいよエコーを当ててみます。
まずは正常な右眼から

意外にもすんなり映りました!
では、これを踏まえて肝心の左眼を見てみましょう。


明らかに水晶体の映り方が違います!!
映った瞬間、おおっ!!と全員の声が揃いました。
角度を変えてよく観察します。


水晶体の内部に、不規則な高エコー領域が認められることがわかりました。
白内障によって水晶体構成蛋白が部分的に凝集している様子が映し出されたものと思われます。
また、水晶体がひとまわり縮小していることで、右眼よりも前眼房がやや広く映っています。
他に確認する点として、
・水晶体脱臼→なし
・明らかな前眼房の拡張(眼圧上昇リスク)→なし
・ぶどう膜の炎症→なし
・網膜剥離→なし
・角膜の肥厚や変性→なし
と判断されました。
白内障側の前眼房が若干高エコーにみえるような?網膜表面の一部にもやっとした領域があるような?若干気になる部分はありますが、手探りの試みとしては予想以上に高い解像度で検査することができました。
左右の水晶体の大きさに若干の差はありますが大きな差ではなく、
・肉眼的に水晶体全体が白濁しているわけではないこと
・エコー検査でも変性領域が不均一で、全体に見られないこと
から、未熟白内障(進行中?)に分類されると考えました。




検査日の肉眼所見いろいろ
今回の内容は以上です。
チオラの使用も検討しつつ、経過観察していこうと思います。
白内障自体がまれな疾患ではありますが、手持ちの道具で比較的簡単に検査できることがわかったので、同様の症例に出会ったときにはぜひお試しください。
お読みくださりありがとうございました!

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