はじめに
TK-Lab.Ambitionでは現在、分娩前後の定点的な血液検査を研究の一環として日常的に行なっています。
乳牛の分娩~泌乳開始において、負のエネルギーバランス~ケトーシス発症は重要な課題であり、ケトーシスの正確な診断には血中ケトン体の測定が欠かせません。
もちろん外注検査でも測定は可能ですが、より迅速に自分たちの手でケトン体を測定したい!ということで、ケトン体測定機器を導入しました。
測定風景
測定の手順を画像付きで簡単に解説します。
①血液を採取し事務所へ持ち帰る

②測定器に電極をセット。自動で電源がONになります。

②持ち帰った血液を専用の電極に滴下。ディスプレイに三本の棒が揃えばOK

③10秒ほど待つ

④測定結果を確認

実際の測定結果は以下のyoutubeにて公開しております。
是非チャンネル登録もお願いします!
測定機器(アボットジャパン合同会社)
本体:フリースタイルプレジションネオ
電極:β-ケトン測定電極III

ケトーシス(ケトン体)とは
ケトーシスとは「体内のエネルギー(糖)が不足することで、代わりに体脂肪を分解して代わりのエネルギー(ケトン体)を作り出している状態」です。
以下、ケトーシスの病態を少し詳しくご説明していきます。

そもそも、健康なヒトや動物の体内では、主なエネルギー源は圧倒的に「糖」です。
残りのエネルギー源は脂肪やアミノ酸ですが、特に脳は「糖」しかエネルギー源として使用できないため、「糖」は生存に必要不可欠な栄養素です。
図中①食べ物から取り入れられた糖は、画像左の図に示すような経路(❶糖から「ピルビン酸」を産生する「解糖系」→❷「ピルビン酸」~「アセチルCoA」からATP(=エネルギー)を産生する「クエン酸回路」)を介してエネルギーを生み出します。
このエネルギー産生のおおもととなる「糖」が不足したときには代わりの経路が動き出します。それが画像右に示す「β酸化」~「ケトン体産生」です。
ヒトの場合は、よっぽど過酷な食事制限をしない限りめったにこの先の反応にはつながりません。
しかし乳牛の場合、ほぼ1年に1回の妊娠~分娩~泌乳を繰り返す中で、特に❶胎子が一気に成長して母体血中の栄養をどんどん吸収する「妊娠後期」と、❷母体血中の栄養素を大量の牛乳に変える「泌乳初期」は、簡単に「糖」が不足する事態となっていまいます。
牛が摂取するエネルギー量に対して、出ていくエネルギー量が多すぎるのです。
図中②体内の糖不足が起こると、まず体内の脂肪組織を「脂肪酸」と「グリセロール」に分解します。さらに「脂肪酸」は「β酸化」という反応を経て「アセチルCoA」に変換します。
この「アセチルCoA」を糖に代わって脂肪から作り出し、クエン酸回路を回すことでエネルギーを生み出そう!というのがこの「β酸化」の目的です(青矢印の部分)。
図中③ところが糖不足が回復せずにどんどん進むと、糖の貯蓄(普段取り入れた糖のうち余分なものは「グリコーゲン」として貯蔵され、血中の糖が足りなくなると「グリコーゲン」を「グルコース(=糖)」へと分解して再利用します)もなくなり、体脂肪の分解~アセチルCoA産生がどんどんと過剰に進んでしまいます。
図中④その結果、クエン酸回路は十分に回っていないにもかかわらずアセチルCoAばかりが溜まっていくため、どんどん産生されたアセチルCoAは行き場を失います。
そこで肝臓では、アセチルCoAを「デアシラーゼ」という酵素によってアセト酢酸(=ケトン体の一種)へと変換します(黄色矢印の部分)。
図中⑤肝臓はアセト酢酸を作り出すことはできますが、代謝してエネルギーに変えることはできません。一方、肝臓以外の組織ではアセト酢酸を代謝してエネルギーを取り出すことができるため、糖からエネルギーを生み出せないときの代替反応となりうるわけです。
💡筆者作成のスーパーシンプル図解で振り返り

しかし、肝臓以外の組織がアセト酢酸を代謝する能力にも限界があり、完全に糖の代わりとなることはできず、あくまで緊急措置のようなものです。
組織が代謝しきれなくなったケトン体は血中に蓄積していき、この状態を「ケトーシス」と呼びます。
すなわち、私たちが今回導入した血液検査装置で血中に蓄積されてしまったケトン体を測定することで、ケトーシスの進み具合を知ることができます。
ケトン体は「アセトン」「アセト酢酸」「βヒドロキシ酪酸」の3つに分けられますが、このうち「アセト酢酸」「βヒドロキシ酪酸」は中程度の強酸であり、血液の緩衝能力(pHの変動をもとに戻す能力)を超えるほど蓄積すると、重度のアシドーシス(血液pHが酸性に傾くこと)に直結してしまい命に関わります。
そのため、血液検査で「血糖値の低下」「ケトン体の上昇」が見られた場合は、ケトーシスと診断しすみやかに治療を開始します。
おわりに
妊娠・分娩し、牛乳を生み出すというメス乳牛の宿命に対して、「ケトーシス」は切っても切れない関係にあります。
「自社内でのケトン体測定」という心強い武器を手に入れたことで、辛い思いをしている牛たちを少しでも早く、適切な治療に繋げられることを期待したいと思います。

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