顎のコブあれこれ

こんにちは!獣医師の渡邉佳和子です。

今回は、8月中にそれぞれ別の牧場で出会った、”顎にできたコブ”について記録してみようと思います。

1件目

・育成牛

・稟告「3日前に見たときにはなかったが、今朝見たら顎が腫れている」

・初診時の写真

右側にハンドボール大の腫瘤ができており、自壊箇所はありませんでした。

下から触るとタポタポとした液体貯留感があり、エコーで確認してみると、腫瘤内腔にはやや低エコーで均一な液体の貯留が確認されました。フィブリン塊や完全に低エコーな液体は映らなかったことから、純粋な血腫ではなさそうでした。

では、実際に中の液体を抜いて確認してみましょう。

出てきたのは…

強~い腐敗臭のある、赤黒い膿汁が大量に回収できました。

血混じりの膿汁であることから、ぶつけるなどの外傷により血腫が形成され、血液の貯留とともに口腔内常在菌などが入り込み、数日かけて腐敗した可能性が考えられます。

液体の直接塗沫をグラム染色すると、多量の陰性桿菌と、少量の陽性桿菌が観察されました。

ヒト医学の資料も参考にしながら調べたところ、膿瘍形成の元となる口腔内常在菌としては、
偏性嫌気性グラム陰性桿菌のFusobacterium属菌/Prevotella属菌/Bacteroides属菌、通性嫌気性グラム陽性桿菌のTrueperella属菌が主なようです。いずれも基本は日和見感染を起こす菌で、混合感染により膿瘍など病変形成に発展するようでした。

実際にこの液体を24~48時間好気条件下で培養したところ、Trueperella pyogenesと考えられるコロニーは∞個検出されましたが、グラム陰性菌に相当するものはありませんでした。

この牛については、抗生剤の投与を15日間継続したのち、経過観察となりました。

治療期間を経て液体貯留感はなくなり、内部には結合織が増生しているようなゴワゴワとした感じが触知されました。目立った痛みや食欲・活気低下は見られず、牛自身はいたって元気そうなので、時間と共に退縮してくれることを願って観察していきます。

2件目

・前日に分娩した経産牛

・稟告「分娩直後に自家治療としてニューボロカール500mlの皮下注射をした。たった今(診療時)、顎下の腫れに気がついた」

・初診時の写真

触ってみるとわずかに液体貯留感を感じる反面、1件目の腫瘤とは違い皮下での可動性がありました。
↓動画あり

エコーで確認すると、1件目とは異なり低エコーで均一な液体の貯留が認められ、筋層に囲まれた嚢胞のように映りました。

こちらも中身を抜いて確認してみましょう。
↓動画あり

腫瘤が小さく、頚静脈など太い血管が近いので、こちらは18G×1/2針で刺しました。

中身は無臭で透明褐色の漿液でした。

腫瘤ができたタイミング的にも、皮下注射したカルシウム製剤の一部が筋層間を伝って腹側に流れ落ち、溜まって腫瘤のようになったのでは?ということで、血液と採取した漿液のカルシウムを測定してみました。

結果、血液→10.2 mg/dL 漿液→13.9 mg/dL と、明らかに腫瘤内の漿液の方がカルシウム濃度が高いことがわかり、仮説は有力となりました。

この牛については、初診時に抜ける限り液体を抜き、翌日以降に再び大きくなることもなかったので、そのまま経過観察となりました。

おわりに

あまりにも大きな腫瘤や皮膚が厚い部位にできた腫瘤の場合は、メスを使った切開により中身を排出させることもありますが、このように針で刺せるような症例であれば比較的牛に負担をかけず、二次感染リスクを最小限に腫瘤の正体を探ることができます。

2件の症例いずれに関しても、腫瘤ができたタイミングや原因についてははっきりとしたことは分かりませんが、似たような部位にできた腫瘤を精査し比較することで、それぞれ全く違ったものであったことがお伝えできたと思います。

今回もお読みくださりありがとうございました!

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