牛の気持ちってどうやってわかるの?

牛の気持ちはどうやってわかるの?

言葉を話せない牛たちの気持ちを知るためには、じっと観察し、小さな変化に気づくことがとても大切です。ペットを飼っている方たちはきっとお分かりだと思いますが、動物たちって毎日さまざまな表情で私たちに語りかけてくれますよね。犬や猫と同じで、牛も体の動きや表情、鳴き声、目の輝きなど、さまざまな方法で感情を伝えてくれているんです。

目は口ほどにものを言う?

牛の「目」は、気持ちを知る大きな手がかりです。安心している牛の目はやわらかく、まぶたが少し垂れ下がっていて、とろ〜んとした表情になります。逆に、驚いているときや警戒しているときは、目を見開いて白目が見えることもあります。これは人間も同じですよね。

耳としっぽもおしゃべり上手?

牛は耳を動かしたり、立てたりすることで、興奮、不安、警戒、高揚感などさまざまな感情を表しています。それから牛は耳を動かして周囲の音を聞き分けています。警戒しているときは、耳がピンと立ち、いろいろな方向に動いて音を確かめます。

リラックスしている時には、耳の動きも緩やかで、時には横にだらんと垂れていることもあります。具合が悪い時はしょんぼりと耳が垂れ下がっていることもあります。
そのため、牛を診る際には耳をよーく見ています。

ちょっと警戒中の牛の耳はこんな感じ
嬉しいときの耳はこんな感じ


また、牛舎や放牧場にはさまざまな虫がいます。特にハエやアブなどの虫を追い払うために、耳を動かしたり振ったりします。

しっぽも感情をあらわすサインの一つです。虫を払うようにしっぽを振るのは普通の行動ですが、もし何度も激しくしっぽを打ちつけているようなら、イライラしていたり、ストレスを感じたりしているのかもしれません。

また、授精や診療を行う際に嫌がって尻尾を何度も振ったり、人間を追い払おうとしたりする時もあります。そのため尻尾を紐で固定したり、我々が抑えるなどして診療を行なっています。

尻尾を押さえいてる様子

鳴き声にも気持ちが出る

牛の鳴き声にも注目してみましょう。お腹が空いているときや不安を感じているときはよく鳴きます。反対に、落ち着いているときはあまり声を出さないようです。また、子牛たちは1匹が鳴き始めると周りにも伝染してみんなで大合唱している時もあります。これはわんちゃんとも一緒ですよね。

人工授精の現場でも、牛の鳴き声はヒントになります。たとえば、発情しているときの雌牛はいつもより鳴く回数が増えたり、他の牛に乗ろうとしたりと普段と違う行動を見せたりすることがあります。発情している時は通常時よりも高い声で鳴く、繰り返し鳴く、ウロウロと動きながら鳴くなどの兆候が見られます。

高い声で激しく鳴いている牛

牛にも「好き」「嫌い」がある?

第1回でも掲載しましたが、牛たちにも、好きな人・苦手な人がいるようです。牛舎に入ると、ある人にはすぐに近づいて嬉しそうにするのに、別の人には後ずさりする、そんな場面を目にすることがあります。おそらく、「この人は優しい」「この人はちょっと怖い」といった印象を持っているのでしょう。


また、いつも餌をくれる人が牛舎に入ってくると喜んでソワソワする、この人は怖いから言うことを聞いておこう、この人の命令は聞かなくてもいいや(自分と相手の優劣をつけている?)などと、実に賢く人を見ているようです。これは一概に子供だから下に見ているだとか、背が高いから上に見ているとか、男だから、女だからは関係なく、その人の接し方や喋り方を見て判断しているような気がします。

また牛同士でも順位があって、自分よりも上の牛には近づけない、隣で餌を食べられない、などもあるようです。牧場で飼育されている乳牛たちはみんなメスですから、女社会の中でお互いの立ち位置をしっかりと認識し、上下関係を守っているようです。

このように牛はよ〜く人を見ているので、牛に近づくときには声をかけたり、朝一番に牛舎に入る時は「おはよー」と声をかけたりなどして、普段からコミュニケーションをよく取るようにしています。特に子牛は人間が入ってくるだけで怖さを感じたり、治療にも恐怖心が強い子が多かったりするので、近づき方や声の出し方、歩く速さには気をつけています。これは人間と牛の間で衝突が起きたり、怪我をしたりするのを防ぐことにも繋がります。

「あったかい」って大切な気づき

牛とふれあうと、体温のぬくもりを感じます。搾乳のとき、人工授精のとき、診療のとき、牛の体に手を触れると、ほんのり温かくてやわらかい。その温かさに触れると、「今日も元気だな」「しっかり生きてるんだな」と実感します。

逆に体に触れて「ん?冷たいかも」、「なんとなく元気がなさそう」と感じることもあります。高度な医療器具を使わなくても、牛を見て、触って、嗅いで、聞いて感じることはたくさんあるんですね。

最後に

私は入社以前から動物が大好きで、哺乳類以外にもたくさんの動物を飼育してきました。彼らとは言葉は通じませんが、コミュニケーションは取れると確信しています。動物たちの行動、鳴き声、あたたかさ、目線、体勢…たくさんの情報から動物は私たちに気持ちを伝えてくれています。
忙しい日々の中でも、牛たちの“声”を聞き逃さずに接したいと感じています。

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