卒業研究紹介:酪農と乳房炎

はじめに

こんにちは。安藤 薫生です。
本記事では、私の卒業論文を簡単にご紹介します。

私の卒業論文では、どのような測定方法を用いることで乳房炎が早期に検知できるか、ということを調べました。本記事では要点を絞って掲載しています。

乳房炎とは

本記事の読者の皆様は“乳房炎”についてご存知の方が多いかと思われますが、まずは簡単に本疾病をご紹介します。

牛の乳房炎は、酪農業において深刻な問題を引き起こす疾病です。特に生乳の生産性や品質に直接的な影響を及ぼし、経済的な損失が非常に大きい疾病です。乳房炎が発症すると、乳牛の健康状態が悪化し、その結果として乳房の機能が低下することで、生乳の生産性が低下するだけでなく、乳質にも悪影響を及ぼすことがあります。これにより酪農家は乳製品の市場における競争力を失い、経済的な損失を受けることになります。

2021年度に公表された農林水産省の家畜共済統計表によると、乳用牛等に関連する病疾病類別事故件数は約140万件に達し、その中で乳房炎に代表される泌乳器疾患が占める割合は非常に高くなっています。具体的には、乳房炎を含む泌乳器疾患の事故件数が44万件で、事故件数全体の30%を占めています。

この数字から分かるように、乳房炎は酪農業において非常に多く発生している疾病であり、その影響の大きさを改めて認識することができます。

乳房炎を早く察知することはできないのか…

乳房炎の早期発見は、疾病の進行を未然段階で食い止め、発症予防や重篤化の防止につながるため、乳房炎の管理には欠かせない要素となっています。さらに、早期に発見することができれば、治療の効果が高まり、乳房炎による生乳生産性の低下を最小限に抑えることができます。
しかし、現在行われている乳房炎の検知方法にはいくつかの課題が残されています。
現在は一般的には体細胞数測定やPLテスト測定が乳房炎の検知方法として用いられていますが、これらの方法は乳房炎が発症してからの検出が主となり、発症の予兆を早期に捉えるには限界があります。


このような背景から、近年では体細胞数をより詳細に解析する手法として、“種別体細胞数(Differential Somatic Cell Count 以下DSCC)”が注目されています。

種別体細胞数(DSCC)

DSCCは従来のSCC(体細胞数)をさらに細分化し、それぞれの細胞の種類ごとに数えることができる新しいパラメーターです。DSCCは乳汁に含まれる体細胞のうち、特に重要な役割を果たす細胞群を分類し、その割合を明確に示します。DSCCの値が高いということは、乳腺内で病原菌と積極的に戦っていることを意味します。

卒業研究について

卒業研究ではこの“DSCC”を用いて乳房炎の早期検知技術の有用性について検討しました。

材料と方法はこちらです↓

では、ここからはどのような結果が得られたかをご紹介していきます。
※DSCCはまだまだ研究途中の測定方法ですので、ご紹介する結果はあくまでも”本試験での結果”ということになります。ご了承ください。

結果①
DSCCは体細胞数(SCC)の上昇に先行して上昇を開始することが明らかとなりました。
→従来のSCCでの検知方法に比べ、感染の初期段階で乳房炎の兆候を捉えることが可能となり、より迅速で効果的な対応ができることが期待されます。

結果②
DSCCを用いることで潜在性乳房炎から臨床型乳房炎への移行を発見できることが示されました。
→症状が顕在化する前の段階で適切な介入を行うことで、乳牛の健康維持や重症化防止に寄与する可能性が高いです。

結果③
SCCが低値であってもDSCCが高い牛は乳房炎を発症するリスクが高いことが確認されました。
→従来のSCCを基準としてモニタリング手法では見逃されがちな感染の初期段階を検知できることがわかりました。

結果④
DSCCを用いることで、感染のステージをより詳細に判断できることが示されました。
→適切で効果的な診断および治療が可能となり、過剰治療や不必要な抗生物質の使用を最小限に抑えることが期待されます。

以上の結果から、DSCCは臨床型乳房炎の早期検知技術として有用であるだけでなく、感染リスクの予測ツールとしても有用であると考えられました。

以上が私の卒業論文の内容を簡単にまとめたものですが、なんとなく皆さんに伝わったでしょうか…?なるべく誰にでも伝わりやすい言葉で、パッと想像しやすい画像を用いながらご紹介させていただきました。

先述の通り、本論を添付していますので詳細は記事冒頭からご覧ください。

おわりに

DSCCはまだまだ新しい技術であり、実証実験のデータ数も少ないため、説得力も乏しいと思います。ですが、私はこれからもDSCCの実用化に向けて研究を続けていきたいなと考えています。今すぐには難しいですが、臨床現場での仕事に加えてこのような研究にも取り組んでいきたいです。
そのことで少しでも乳房炎に苦しむ牛や農家さんが少なくなったらいいなと思っています。

乳房炎繋がりでもう一つ。
最近、診療の中でよく目にする“乳房洗浄”についてです。
薬剤や生理食塩水を乳房に注入して、それを排出する。シンプルな作業に見えますがこの一連の施術の中にたくさんのポイントが隠れていました。
一つ一つの作業の意味を理解しながら施術を行うことで、一回の施術の効果をより高められるということを学びました。日々新しい施術を見ることができてとても刺激的で楽しいです。

以上、長くなりましたが、私の卒業研究について、乳房炎についてのご紹介でした!!
最後までお読みいただきありがとうございました。

コメント