新生子牛の破傷風疑い

開業から7ヶ月が過ぎ、精神的に余裕が出てきたおかげか、最近ようやく勉強意欲が高まってきた獣医師の渡邉佳和子です。

今年中に会社にある6年分の臨床獣医バックナンバーを読みきることを目指して、せっせと本棚から取り出す毎日を送っています。

さて先日、臨床獣医2019年9月号を読んでいたところ、「牛破傷風の診断と治療の基本原則:20検討からの検討(著:外村順一 先生)」という記事に興味を引かれ、読み進めました。

気になった部分を以下にかいつまんで整理してみます。(この後お話しする症例に関する部分以外を一部省略しています)

破傷風の発症の流れ

①外傷、角損傷、去勢創、臍帯、創傷性第二胃炎、胎盤停滞などから感染

②感染部位で嫌気条件下となることで増殖、受傷後6時間以上経過すると毒素(テタノスパミン)産生開始

③血流を介して神経線維内を上行性に移動~脊髄運動神経、脳神経に達すると発症
(※新生子牛破傷風の潜伏期間は3~11日)

破傷風の症状

特徴的とされる症状=筋硬直、自律神経障害、筋痙攣

第1期(初発期)

・開口障害(牙関緊急)による食欲・飲水低下~廃絶

・頚部頚筋(全身の骨格筋の中で硬直の変化がわかりやすい)が硬直+背線上の広範囲の背筋が硬直し、歩行忌避
☆この時期に治療開始することが重要

第2期(増悪期)

・全身の骨格筋・背筋は持続性収縮により硬直→強直へ進行し、伏臥・歩行・後退・回転などが困難となる

・第三眼瞼の露出、尾の挙上・張り付き、ルーメン鼓脹、

・四肢の屈曲不能→歩行困難→木馬様姿勢で側臥位に倒れる(同時に死亡することもある)

第3期(強直性痙攣のみられない側臥位期)

・この時期からでも治療により回復する症例あり

第4期(強直性痙攣のみられる側臥位、窒息死期)

・開口障害、後弓反張、全身硬直、四肢伸展強直が高度化

・発熱、発汗を経て窒息死 

・この時期からでも治療により回復する症例あり、治療を開始したら諦めずに遂行する

新生子牛破傷風

・出生後、臍帯から感染→3~11日の潜伏期間を経て発症

・初発症状の不完全な開口障害

⇨軽症例で後躯蹌踉、重症例で後弓反張、最重症例で出生後3日で意識喪失

①定型的病態(臍帯部真上の背筋に限局性の板状の硬直が触知される)

②非定型的病態(骨格筋の硬直が触知されない(”新生子牛は出生前に胎内で胎水の浮力を受けており、成牛と比較して骨格筋が重力の負荷を受けておらず未発達なため”と言われている)、消化管運動低下・体温低下・刺針で痛覚反応消失)

③2つが同時に存在する病態 に分かれる

治療

新生子牛破傷風の場合
キシラジン鎮静下で臍帯焼烙+ペニシリンG25,000単位/kgを1日1回・7日間投与のみ

→5例中3例を救命(いずれも軽症例)、重症例と最重症例は助からず

その他の症例
ペニシリンG 25,000単位/kgを1日2回・10日間投与で子牛3/3頭、成牛2/4頭が治癒

※治らなかった2頭=産後の胎盤停滞を合併した症例/一夜にして側臥位にまで進行した(サシが入ったことにより骨格筋の収縮力が弱まり、側臥位に至るまでの変化に気づきにくかった)後期去勢肥育牛

+産後の胎盤停滞を合併した全身型の破傷風→ペニシリンG 50,000単位/kgを1日2回・10日間投与のみで治癒した症例あり

この内容を読んだとき、ふと約1ヶ月前に診療した子牛のことが思い起こされ、あれ?もしかしたら…という考えが頭をよぎりました。そこで、その子牛の診療内容についても以下に整理してみようと思います。

約1ヶ月前に診療した子牛

初診日:「子牛の元気がなく、時々ミルクの飲みが悪い」との主訴で診察。

所見は以下のカルテ画像の通りです。

全体的に子牛の状態はどこかがすごく悪いという感じではありませんでしたが、臍帯が軽度に腫脹・化膿していたため、臍帯炎と診断し抗生剤の投与を開始しました。

第2~6病日:臍帯から採取された大腸菌の感受性を考慮し、セファゾリンの投与を5日間継続しました。子牛の調子は良さそうだったので、一旦治療を終了し様子見となりました。

第7病日:最後にセファゾリンを投与した日の18日後に、「子牛が側臥位で倒れており起立できない」との主訴で再診。

往診時の様子は、

・側臥位で倒れ、四肢を硬直、持続的に痙攣させている

・触診に対して過敏に反応する

・視点が定まらず、眼を見開いて瞬きせず、可視粘膜充血

・両耳を後ろ側にピンと伸ばしたまま固まっている

・耳介、四肢末端、体表が冷たい

・頚部~背筋にかけて板状に硬直し、自由に動かせない様子

・補液後、補助するとなんとか起立姿勢を維持するが呆然としている。棒を床に立てて支えているような感じ

↑補液後に立たせたときの様子。四肢がピンと固まって見えます。

この日は糖とアミノ酸、ビタミンB1を含む補液と、セファゾリン+フルニキシンの投与をしました。

第8病日:セファゾリン+イーエスイー(動画あり)

動画1

動画2

第9病日:セファゾリン+フルニキシン

第10病日:頚部の硬い感じが若干良化した印象あり、フルニキシン投与

第11~12病日:フルニキシン投与

耳が硬く冷たい様子は変わりませんでしたが、ミルクの飲みは徐々に改善されていったようです。

   

診療はここまでとなります。

その後診療依頼はなく、離乳に向けて順調に成長できているようです。

まとめ

記事の内容と比較すると、発症時期など少しずつ矛盾する部分はあり、この症例が破傷風の軽症例だったかどうか今となっては不明ですが、幸運にもC.tetaniに感受性がある抗生剤の一つとされるセフェム系薬剤を(途中で期間は空いていますが)合計8日間投与したことが功を奏していたのかも?と推測してしまいます。

二度目に診療を依頼されたときの子牛の様子は我々が見たことのない不思議な状態で、まるで血が通っていない人形のように全身が冷たく、頚部~背筋にかけてがっちりと固まった硬直状態が明らかでした。そして今思えば、「ミルクの飲みが悪い」というのも、軽度な開口障害によるものだったかもしれません。

元気がないし、神経症状は明らかだけど…一応立てているし、ミルクは全く飲めていないわけでもないし…治療しながら症状を改善する薬剤を探していくしかない!と抗生剤やNSAIDs、ビタミン剤を使用し、結局はなんだったかよくわからないまま子牛が回復してくれたモヤモヤの残る症例でした。

しかし今回の記事を読めたことで、次に似たような牛に出会ったときに可能性の一つとして臍帯から病原菌が感染する”新生子牛破傷風”を思い浮かべることができるようになったと思います。

そして重要なことは、届出伝染病の1つなので、素早い診断とともに行政に届け出られるように今後気をつけたいと思います。

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