皆様こんにちは!獣医師の渡邉佳和子です。
本日は私たちが日頃行っているお仕事のうち、分娩前チェック&報告書の作成について、実際に行った様子とともにご紹介します。
1.分娩前チェックとは
分娩予定日の10日前の牛に対し、分娩に向けた母牛・胎子の状態を確認します。
経産牛全頭に対して行う農場もあれば、多産の牛に限定して行う農場もあります。
①一般状態チェック
母牛の体格やルーメンの大きさは十分か、肢の痛みなど起立状態に問題はないか、リンパ節は腫れていないか、乳房炎はないか、など

↑ルーメンの大きさを確認しています。この牛は他の乾乳牛よりもルーメンが小さく、痩せ気味でした。
②産道・子宮の状態チェック
妊娠しているか、産道の開き具合・粘液の硬さ・胎子の大きさは分娩予定日に準じた状態になっているか、産道に傷や捻れはないか、胎子の向きや生存の確認、など

↑予定日の10日前なのでまだ硬めの粘液です。頚管は指2本分開いていました。

↑前肢2本と頭が産道近くで触知され、直腸壁越しに胎子と握手できました。
予定日の10日前でも胎子が子宮の深くにいて全く手が届かないこともあります。
③血液検査
分娩予定の50日前と10日前に行うことで、乾乳期を経た母牛の血液性状上の変化を確認し、分娩後の疾病リスクなどを予測します。こちらも、農場によっては検査項目を絞って行うことがあります。分娩後に診療依頼が入った際は、獣医師にとってはとても参考になる有難い情報です。


↑持ち帰った血液は、午後の事務作業の前には検査を終わらせて報告書に反映します。
生化学項目も全て社内で検査が完結するため、当日中に報告書をお渡しできるのが私たちの強みでもあります。
以上の3点より、牛の状態を判断します。
2.分娩前報告書とは
上記の分娩前チェックの結果をもとに、農場の皆様に向けた報告書を作成します。
こちらの作成は、現時点では開業以来全て私(渡邉)が担当させていただいています。
農場の皆様に伝わりやすいだけでなく、分娩後に診療依頼があった際に自分たちが参考にしやすいことも考慮した項目・写真を盛り込むようにしています。
以下に、過去に作成したものをいくつかご紹介します。




特にほとんどの報告書で血液検査結果について言及しているのは、泌乳末期-乾乳初期-分娩直前にわたるコレステロールの変動についてです。
乳牛の末梢血中のコレステロール値は脂質の採食量に比例すると言われており、中-長期的な採食状況を表す重要な指標となります。ほぼ全ての牛では、泌乳末期から分娩直前にかけてコレステロール値は急減します(1/3-1/4程度まで減少することも珍しくありません)。これは私たちがこれまでに行ってきた分娩前血液検査の結果からも明らかです。
しかし、その中でも減少幅は牛によって差があり、高い値から低い値へ急減する牛、低い値から非常に低い値へ急減する牛、低い値のまま少ししか減少しない牛など様々です。
乳牛の分娩とコレステロールの関係に関しては、分娩後の免疫状態やケトーシスリスクに関与することなどが報告されていますが、わからない部分も多くあります。
私たちも今後このような取り組みを続けていく中で、乾乳期を通したコレステロールの変化が分娩後の牛において“臨床的に”どのように関与しているか、日々の診療を通して探っていきたいと考えています。
数年分の検査結果と診療カルテが蓄積されていけば、季節に伴うエサや気候の変化も含めた乳牛の分娩とコレステロールの関係について、新たなヒントが掴めるかもしれません!
分娩前チェックが獣医師本位のものとならずに、検査を実施させてくださっている農場の皆様に少しでも「お願いしてよかった」と思っていただけるよう、一つ一つの分娩前チェックを丁寧に行い、報告書としてお返ししていきたいと思います。
今回もお読みくださりありがとうございました。
コメント