こんにちは!獣医師の渡邉です。
本⽇は、⼦⽜に関する話題をお届けします。
畜主さんから「追い移植した親から⽣まれた双⼦の⽚割れがフリーマーチンかどうか確認してほしい」 とのご依頼をいただき、遺伝⼦検査による確認が必要かどうかも含め、現場で確認してみることとなりました。
ではまず、フリーマーチンと、その診断⽅法を簡単におさらいしてみます 。
フリーマーチンとは?
間性
(解剖学的に完全な雌雄の判別を⽰さず 、 両性の特徴を併せ持つ状態のこと) の⼀種。
初期胚期において、雌胎⼦と雄胎⼦の胎膜⾎管が吻合し、胎⼦間で⾎流(⾎液細胞)交換が起こることで発⽣する性染⾊体キメラ(XX/XY)のこと。

雌⼦⽜への影響は?
異性多胎 (雄雌双⼦など) の場合、雌の約 92〜93%には正常な性分化が起こらず、不妊症となり、繁殖に供することができない=⽣乳⽣産ができません。
卵巣の精巣化(卵巣組織と精巣組織が混在しているそうです 。ぜひ顕微鏡を通して⾒てみたいです)が様々な程度でみられ、内部⽣殖器(⼦宮・卵巣)の発達は極めて悪く、雌雄両性の内部⽣殖器を持つ場合もあるようです 。

雄⼦⽜への影響は?
雄ももちろん雌と同様に性染⾊体キメラとなりますが、繁殖能⼒に障害はないとされています 。
雌だけに性分化異常が起こる原因は?
雄胎⼦由来のY染⾊体上に位置する性決定領域(Sex-determiningregion:SRY) が、 雌胎⼦の未分化な卵巣原基を雄性化してアンドロジェンの分泌を起こさせることによるものと考えられています 。下図を参照するとその仕組みがわかりやすいかと思います。

フリーマーチンの診断⽅法は?
①膣⻑測定
膣が正常な⽜より短いことがほとんどなので、棒状のものを挿し込んで膣⻑を測ることで確認できます 。
正常⼦⽜では 12〜18cm 挿⼊できるのに対し、フリーマーチン⼦⽜では8〜10cm程度しか挿⼊できません。ただし、この⽅法で100%診断できるわけではなく、フリーマーチンだったとしても正常⼦⽜と同程度の⻑さであることも数頭に1頭程度いるようです。
②⾎液細胞の遺伝⼦検査
雌⼦⽜の⾎液中に、雄胎⼦由来の⾎液細胞が混ざっているかどうかを雄特異的なDNA塩基配列の検出により判定します 。「雄胎⼦由来の⾎液細胞が検出=⾎管吻合による⾎液キメラがあったことの証拠=フリーマーチンである」というわけです。ですので、⽑なども利⽤可能な親⼦判定・遺伝⼦型検査とは異なり、フリーマーチン検査は⾎液でしか⾏えません。
ただし、 遺伝⼦検査は外部に委託することでしか現時点では⾏えないので、当然畜主さん側に費⽤が発⽣してしまいます 。そこで、まずは膣⻑測定により判断してみることにしました。
①フリーマーチン疑いの⼦⽜

外貌はこんな感じです。後述の正常な⼦⽜と⽐較して、 フリーマーチンの特徴の⼀つである外陰部の剛⽑化が認められます。

シース管を挿⼊するとすぐに⾏き⽌まってしまいました。

これしか⼊りませんでした。あとで⻑さを測ってみます。
続いて、この⼦⽜の2⽇前に⽣まれた正常な雌⼦⽜でも⽐較対象のために測定していきます。
②正常⼦⽜

外貌はこんな感じ

先ほどとは異なり、かなり奥まで⼊りました!
⼊ったところに印をつけておき、2本を並べるとこんなに違いました。

上が①フリーマーチン疑いの⼦⽜で、膣⻑は6.2cm
下が②正常⼦⽜で、膣⻑は 17.4cmという、ほぼ教科書的な結果となりました。
外貌だけでははっきりわからなくても、このように膣⻑を調べてみることで、「ほとんどの確率でフリーマーチンである」と畜主さんにお伝えすることができました。
ただし先述の通り、異性多胎であっても残りの約 7〜8%の雌胎⼦はフリーマーチンとはならないこともあるということを忘れず 、確実に診断することが重要です 。
今回も⼤変勉強になりました!ご協⼒いただいた農家さんに感謝申し上げます 。
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