はじめに
ここまで5回にわたって、「牛ってどんな生き物?」というテーマで、牛たちの体や気持ち、生活についてお伝えしてきました。
第1回では、牛の種類、視覚、体の大きさ、性格を紹介しました。
第2回では、「牛の1日を知ろう!」をテーマに、1日のスケジュールや、餌の内容、寝姿についてご紹介しました。
第3回では、草を食べる牛の体のしくみや「4つの胃」の秘密を取り上げました。
第4回では、牛の乳房やミルクができる仕組みを詳しく学び、毎日の牛乳の背景には多くの工夫と労力があることを知っていただきました。
そして第5回では、「牛の気持ちってどうやってわかるの?」をテーマに、表情やしぐさ、鳴き声などから、牛と心を通わせるヒントを探りました。
そしていよいよ今回が最終回。最後は、日本における牛の歴史、そして牛たちの模様を詳しくお話ししたいと思います。
日本と牛の長いつきあい
私たちの暮らしに欠かせない牛。
今ではミルクやチーズ、お肉として当たり前のように食卓にのぼる牛ですが、日本で牛が飼われるようになったのは、実はおよそ2000年前のことだそうです。
紀元前後の弥生時代に、大陸から農耕文化とともに牛が渡来し、水田を耕すための「働く動物」として使われるようになりました。
長らく日本では、牛といえば田んぼを耕すための労働力。
「ウシに引かれて善光寺参り」のようなことわざも残っているように、牛は昔から人々の暮らしの近くにいた存在でした。
※ひとことメモ※
「牛に引かれて善光寺参り」は思いがけないことがきっかけで、いい方向に導かれることのたとえです。
一方、牛を食べたりミルクを飲んだりする文化は、明治時代まではあまり広がっていなかったそうです。
当時は仏教の影響などもあり、肉食そのものが一般的ではなかったからです。
ところが明治に入ってからは、軍や天皇が積極的に牛肉を召し上がるようになり、乳牛や肉用牛の飼育が一気に広がり、現在のような酪農や肉牛生産が本格化したそうです
今では日本各地に酪農地帯が広がり、北海道、栃木県、熊本県、群馬県、そして千葉県などを中心に、多くの牛たちが健康に育てられています。
こうした牛たちは、種類もさまざま、顔や体の模様も一頭ずつ違っていて、同じ「ホルスタイン」でも全く違った印象を受けることもあります。
みんな違ってみんな良い
牛は、古くから日本人とともに歩んできたパートナーです。
時代が進む中で、その役割は「働く牛」から「食べる・飲む牛」へと変化しましたが、どの時代でも牛は人とともに暮らしを支える存在でした。
そして今、私たちが牧場で出会う牛たちは、どの子も個性にあふれています。
特に目をひくのが、顔や体の模様のちがい。
その模様は多種多様で、牛を見分ける一つのヒントでもあります。
さあ、次はそんな牛の見た目のふしぎについて、少しのぞいてみましょう。
牛の模様に注目してみよう
牛と聞いて思い浮かべるのは、白と黒のまだら模様の牛ではないでしょうか?
これは「ホルスタイン」という乳牛の代表的な姿です。でも、実はこの模様、よく見ると一頭一頭まったく違うんです。
黒が多い牛もいれば、白が広がっている牛もいる。左右対称な模様の牛はほとんどいなくて、黒と白の二色から織りなされる模様はとってもユニークです。

ミニコラム【牛の尻尾の毛はみんな白?】
実はホルスタインの尻尾の毛は基本的に白いのが特徴です。これはホルスタイン種特有の遺伝的な特徴です。ホルスタイン種特有の白色と黒色の毛の遺伝子で優勢な遺伝子は白色と言われ、この遺伝子型によって尻尾が白色になるんだそうです。また、尻尾の先端の細胞にはメラニン色素(黒や茶色の元)を作る細胞が少ないため、色素が作られずに白い毛が生えるそうです。
ジャージー種やブラウンスイス種では尻尾の毛も全体的に茶色っぽかったり、黒っぽかったりするため、この尻尾の色が白色になるのはホルスタイン種特有だそうです。



顔の模様は牛を見分けるひとつのヒント
牛舎にたくさんの牛が並んでいても、牛を見分けることができるのは、その体の大きさや形、そしてその“模様”のおかげです。
それでは38頭の牛たちの顔を見てみましょう!
まずは白と黒が半分ずつの牛たちからご紹介します!

次に黒が多い牛たち

黒が多いと少しかっこいい印象が強くなりますね。黒は引き締まる色なので、シュッと小さく・細く見えることもあります。
しかし、ホルスタイン種は全身が真っ黒の牛は存在しません。尻尾の先、足首、腹部には白色が必ず入っています。
そして白が多い牛たちです

逆に白が多い牛は大きく・ゆったりとした印象を持ちます。そしてよーく見てみるとまつ毛も白い子がちらほらいます。
いろんなアタマ
毛質にも個性は出ます。頭の毛を見るとストレートの子や癖毛の子、またそのボリュームの違いにも気づくことができます。
私流に分類してみましたが、よく見られる頭はこのような感じです。

模様が気づかせてくれること
模様は「見た目」だけのものじゃありません。
酪農家さんたちは、体毛の変化から牛の体調に気づくこともあります。たとえば「毛並みがざらついてきた」「毛が抜けてきた」といった変化は、体調不良のサインかもしれません。
つまり、模様は“健康の鏡”にもなるのです。
おわりに
今回の連載の最終回は、牛の見た目に注目してみました。
模様を通して、牛を「ただの動物」ではなく、「一匹いっぴき」として見る視点が生まれたら嬉しいです。
コメント